歴史をたどる

~可否茶館の思い出~
和田由美氏

~可否茶館の思い出 和田由美氏~

本物だと感じた
珈琲専門家の技術と精神


可否茶館が創業した70年代初め、当時の札幌はまだ文化的に進化を始めたばかりでした。札幌が大きく変わった年がオリンピックの年、本州からあらゆる文化や人が北上してきましてね、その中で喫茶店は様々な人が集まる場所として、札幌の文化発展に貢献していたと思います。そしてその発展に貢献した一人が可否茶館の創業者である滝沢さんだと思っています。
大通店の記憶はカウンター各席に用意されたサイフォンの記憶。コーヒーと一緒に炭酸水やナッツ、クッキーが出されました。可否茶館は早い段階から自家焙煎を始めていましたから、自家焙煎のパイオニアとして抜群にコーヒーが美味しかったです。美味しいコーヒーと今までにない洗練されたサービス、そして垢ぬけたおしゃれな雰囲気にカルチャーショックを受けましたね。

紳士淑女が静かに佇める
くつろぎの時間



2店舗目の可否茶館倶楽部は、都心から少し離れたところにあって、私も街の喧騒から逃れたいとき、自分の時間を取りたいときに通っていました。建物は木造の古民家を改築して喫茶店にしていましてね、当時はまだ古民家を再生してお店にするような事例は札幌になかったから、そういう意味でも可否茶館はパイオニアでしたね。
お客さんはグループの方でも騒ぐ方はいなくて、一人の方も、アンノン族と呼ばれた若いおしゃれな女性も、誰もが1杯のコーヒーを静かに楽しむ、空間を大事にする暗黙のルールがあったと思います。
いかに美味しいコーヒーを良い空間で飲めるか、可否茶館倶楽部はその気持ちに応えてくれました。

弟子たちが受け継ぎつなぐ
自家焙煎珈琲の魅力


滝沢さんは横浜や東京の新しい香りを札幌に持ってきて、コーヒーに対するこだわりもですし、デザインに対しても造詣が深い方で、本当にセンスのある方だと驚きましたね。
可否茶館で滝沢さんと一緒に焙煎を始めた斎藤さんや、滝沢さんのもとで焙煎を学んだ弟子たちがやがて独立し、自家焙煎珈琲の魅力を札幌でさらに広めていきましたから、滝沢さんは札幌の喫茶店文化を支えてきた方とも言えると思います。可否茶館出身の方たちのつながりを家系図みたいな形で見てみたいですね。
私が「さっぽろ喫茶店グラフィティー」で可否茶館のことを書いたとき、滝沢さんがすごく喜んでくれたんですよ。

珈琲文化を大切に
次の世代に寄り添える存在に


北海道と札幌は2018年に150年を迎えましたが、俯瞰して札幌の歴史を見ると、そのうち50年可否茶館が営業している、そんな前に珈琲文化をけん引するお店が芽を開いたなんてすごいことですよね。50年の時間が今につながっている、奥深さを感じます。
これからの可否茶館には珈琲文化を守りながら、文化のタニマチ的な、若者が集まれるあらゆる文化を応援する存在、文化発展に貢献するような存在になって欲しいと思います。
歴史を大事にしながらも次の100年目指してください。
それには若い人のパワーが必要ですから。



和田由美氏(写真左)
株式会社 亜璃西社代表
北海道に根差した出版社の代表にしてエッセイスト

インタビュアー(写真右)
可否茶館50周年プロジェクト リーダー
畔木陽介